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【うるおい女子の映画鑑賞/愛の栄養分は?】『パリ、ただよう花』(仏=中・2010年)

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身体と同様に、こころもエクササイズが必要。週に1本映画を観ることで、こころの筋肉をしっかりと動かし、“きれい”を活性化しませんか? そんな“きれいになれる”映画を毎週紹介する【うるおい女子の映画鑑賞】。

 

第15回のテーマは「愛の栄養分は?」。ご紹介するのは、中国気鋭の映画監督ロウ・イエの『パリ、ただよう花』。当局から5年間中国国内での映画製作を禁止から解放されたロウ・イエが最初に撮った作品です。解禁早々、攻めまくった映画です。

 

パリただよう花セルジャケ

『パリ、ただよう花』DVD発売中 ¥3,800(税抜)発売元:アップリンク ※2016年1月9日現在

 

 

 

|「愛」の栄養分は?

 

「そんなの愛じゃない」「愛がないよ」「その恋愛どこにいくの?」…女子同士の恋愛トークでしばし聞かれるこれらの常套句。だけどいったい、何をもって「愛」なのでしょう。

 

原材料は何で、どの栄養素が何mgずつ含まれていて、○kcal以上で、原産国はどこで、賞味期限はいつなのか、詳しく教えて欲しい、といつも思う。

 

Love and Bruises (16)

 

『パリ、ただよう愛』は批評家でも賛否両論の問題作で(ロウ・イエ監督の作品の多くがそうであるように)、この映画に対する評価はすなわち、個々人の愛の品質管理を表しているように思います。

 

 

 

 

|「愛」と「セックス」

 

主人公の中国人女性ホア(中国語で「花」の意)は留学生としてパリに来たばかり。フランス人の恋人を追いかけてはるばる北京からやって来たのですが、早々に「もう愛していない」と恋人に振られてしまいます。しかし彼女は毅然として言います。「愛していなくて結構。最後に一度だけ抱いて」と。その後男に「北京の彼氏のところへ行け」と拒絶されることから、彼女には北京に残した恋人がいることがわかります。

 

パリへ来た目的が瞬時に崩れ去ったことから、無気力に呆然と街を歩くホアは、工事現場である男が運んでいた鉄パイプにぶつかり倒れ込みます。これが、ホアとフランス人男性マチューの出会いの場であり、その後のふたりの関係性を象徴する場面なのです。原題は『Love and bruises』、つまり「愛と青あざ」です。彼女は青あざをつくらずして人を愛せないのですが、まさに、青あざだらけのマチューとの関係の始まりは、このとき額につくる青あざで始まるのです。

 

main

 

この映画は、インテリの中国人女と、肉体労働に勤しみながらきな臭い仲間の盗みに手を貸すチンピラの移民フランス人男の関係を、激しく荒々しいセックスを軸に描いていきます。この関係を何と呼ぶのか(愛なのか恥やけがれなのか)、ふたりの関係のねじれの理由をどこに置くのか(国、文化、個人…)によって、その人の恋愛観や人生観が浮かび上がる気がします。

 

 

 

 

※以下ネタバレ含みます

 

|ただよう女

 

ハオがただようのは、「本能」と「理性」。もしくは「動物」と「人間」、「異国」と「故郷」、「今」と「未来」、「解放」と「抑制」、ひいては「お菓子」と「ごはん」をただよっているのだと思います。

 

生活水準も教養も人種も文化も国籍も何もかも違うマチューとの、激しく体を求めあい、傷つけ合うばかりの破滅的な関係。そのなかでホアは、タイトル通りにただよいますが、彼女は聡明な女なので、実はその細い首には首輪がちゃんとついています。しかも、ものすごく伸びるリードのついた首輪です。北京からパリまで余裕で伸びます。

 

LOVE AND BRUISES001

 

欧米でこの映画に対してネガティヴな評価があった理由のひとつがホアの男の意のままになる受け身なキャラクターとも言われていますが、彼女は受け身なのではなく、本能のまま生きている、あるいは生きたいと思っているのだと思います。けれど首輪がないと不安でしょうがないから、リードをつけたまま暴れて、青あざをたくさんつくりながら苦しんでいる人物だと思います。

 

 

 

 

|「お菓子」と「ごはん」の物語

 

ハオは「お菓子」が好きなのです。彼女に限らずたいていの女子はお菓子が好きです。だけど、それではカロリーが高いばかりで栄養が偏ってしまうので、お菓子だけを体を壊すまで食べるようなことは、たいていの人はしませんよね。彼女も哀しいかな、結局それができないのです。栄養を頭で考えてしまうのと、これまでの生活からジャンクなものに対して体が本能的にストップをかけるのでしょう。

 

北京の男の元に帰ると、「パリに行って痩せた。ビタミンが足りなかったんだね」と言い、男は手料理を振舞います。それを食べながら、結局自分は栄養バランスのとれた「ごはん」が必要な人間なのだ、とハオは自らに落胆します。皮肉にも、バランスのいい食事は彼女の頭をクリアにし、就職、縁談と軌道に乗ります。ところが、ハオの表情に生気はありません。マチューとの関係が愛ではないなら、北京の男との関係は愛なのでしょうか。わたしには、愛に生きたいけれど、生きられなかった女の哀しみが映し出されいるように見えました。体に悪いものは高カロリーで美味しいもので、まさに、高カロリーなマチューとの関係は中毒性があるようです。

 

ラストシーン、彼女が何を食べているか。そしてどこに向かっているか。このアンビバレンスこそ、この女の不幸なのです。

 

 

 

この物語を「愛」と呼ぶか否か。この物語のどこに「愛」を見つけるのか。そして、総カロリーはいくつで、どんな栄養要素がどれくら含まれていたらそれを「愛」と表示して良しと自分は判断するのか。この映画と向き合うと、意外な自分の恋愛観が浮き上がってくるかもしれません。今週末「おうちシネマ」にいかがですか?

 

 

text:kanacasper(カナキャスパ)(映画・カルチャー・美容ライター/編集者)
編集を手がけた韓国のカリスマオルチャン、パク・ヘミン(PONY)のメイクブック『“かわいい顔”はつくるもの! 秘密のオルチャンメイク』(Sweet Thick Omelet/DVD付/¥1,500・税別)が好評発売中。こころもからだも豊かに美しくしてくれる日々の”カケラ”をブログで収集中。
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