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ルネサンスの巨匠はマザコン?!

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「日本におけるイタリア2013年」と題された2013年。まずは上野・国立西洋美術館にて『ラファエロ』展がスタートした。これだけのラファエロ作品が見られるのはまたとない機会。そんなルネサンスの巨匠が実は”オンナ好き”、しかもマザコンだった……って本当??

「ラファエロ展」図録の表紙を飾っているのは『大公の聖母』。イベリア半島中央部にあったカスティーリャ王国の大公、フェルナンド三世が生涯に渡り大切にし、自室の寝室に飾らせたということからその名が付いた。

  まずは簡単に彼の生い立ちを紹介しよう。ラファエロ・サンツィオ(1483〜1520)ー中央イタリアのウルピーノ公国の宮廷画家ジョヴァンニ・サンツィオの息子として生まれる。幼くして画家ペルジーノの工房に弟子入りしたラファエロだったが、8才で母を、11才で父を亡くして孤児となり、波乱の生涯が幕を開ける。

 現在開催されている『ラファエロ』展でも公開されている名画「大公の聖母」(1505〜1506年)をはじめ、ラファエロはこれまでに数々の聖母子像を描いている。特に女性の表現に卓越したラファエロは、母親を早くに亡くした事からか、“マザコン”と言われることも少なくないのだが、果たして本当にそうだろうか?

 1508年にローマに移住してからのラファエロはローマ教皇に招かれ、ヴァチカン宮殿のフレスコ壁画制作という大仕事を手がけたりと、パトロンにも恵まれる。 50名におよぶ弟子を抱える工房を建て、下請けを持つほどだった。ラファエロの工房からは数々の著名な画家が輩出。二人のローマ教皇とその側近に親密な後援を受けていた彼はその後、宮殿のような屋敷に住むまでの大成功を収めている。

自画像と言われている『若い男の肖像』。しかし実際のところ、誰を描いたのかは謎。現存する何点かの自画像に酷似しているのは確かだ。

 ルネサンスの巨匠とされるダ・ヴィンチ、ミケランジェロと同様に、ラファエロも生涯独身。ダ・ヴィンチは同性愛、ミケランジェロは異性にはほとんど興味がなく(いずれもあくまでそういう想像ができるという意味だが)、唯一女性を好んだのはラファエロのみ。ラファエロは幾つかの自画像からも分かるように美男子で、社交好き。枢機卿メディチ・ピッピエーナの姪、マリアと婚約していたが、複数の女性とも関係を持っていたようで、数多くの浮き名を流したとされている。
 そして、ラファエロは制作の際に裸体の女性モデルを用いた最初の芸術家と言われており、「ラ・フォルナリーナ」(1519年)のモデルは、熱愛関係にあったパン職人の娘、マルガリータ・ルティなのだとか。

 最高傑作である「大公の聖母」からは、現在も慈愛に満ちた美しさ(=グラッツィア)が溢れている。と同時に、「ラ・フォルナリーナ」のように愛した女性を描いた作品や、聖母子像のなかでも「ベルヴェデーレの聖母」(1506年頃)など、親近感をおぼえる作品も多い。これもすべて、ラファエロの女性全般に対する愛の表れなのかもしれない。
 余談だが、ラファエロはマルガリータとの激しい情事が元で熱病となり、37歳の若さで死に至ったのだそう……。

 「英雄、色を好む」はこんなところにも!? しかし多くの女性を愛したラファエロだからこそ、女性に潜む母性や女性らしさの本質を理解し、「大公の聖母」のような慈悲に溢れた名作を描き得たのかもしれない。

*本稿におけるラファエロのエピソードは、ジョルジョ・ヴァザーリ(1511〜1574)の「画家・彫刻家・建築家列伝」などを参考にした。

『ラファエロ展』は、2013年3月2日より6月2日まで上野公園の国立西洋美術館で開催。
http://raffaello2013.com/

text::chibahidetoshi

 


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