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一角獣の名画とガンダム

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「我が唯一の望み」(Mon Seul Désir、377cm×473cm、下絵:パリ、製織:南ネーデルランド、北フランスもしくはパリ/1500年頃/羊毛、絹)青い大きな天幕の前で侍女が捧げ持つ小箱の中の宝石を貴婦人が手にしている。題名の「Mon Seul Désir」という言葉は天幕の銘文から取られている。

 この『貴婦人と一角獣』は、前述のとおり『機動戦士ガンダムUC』の「episode 1 ユニコーンの日」の重要なシーンに登場する。主人公でユニコーンガンダムのパイロットとなるバナージ・リンクスが、謎の少女オードリー・バーン(実はザビ家の姫、ミネバ・ラオ・ザビ)とともに、ビスト財団の当主でユニコーンガンダムを開発させたカーディアス・ビストに邂逅するシーンだ。
 スペースコロニーの特別な場所に設けられた、19世紀風の屋敷の中にある豪奢な広間。そこに『貴婦人と一角獣』は飾られており、バナージはそのタピスリーのある場所にデジャブを感じる。

 『貴婦人と一角獣』はバナージの出生の秘密に関わるだけでなく、同作の物語に重要な影響を与えている。ビストはユニコーンガンダムを鍵として、謎の存在である「ラプラスの箱」を解放する事で、二つの人類(地球生まれのアースノイドと宇宙生まれのスペースノイド)の和解を図ろうとする。
 6面の1つである「我が唯一の望みに」の中央には、侍女が貴婦人に掲げて持つ宝石箱が描かれているが、これは「ラプラスの箱」と符号する。さらに言えば、「我が唯一の望みに」は “第六感” を示すという解釈もあり、まさにガンダムサーガにおける必須のキーワードである「ニュータイプ」(直感や反射神経などそれまでの人類の能力を超える能力を持つもの)とも符号するのだ。

 『貴婦人と一角獣』は、19世紀の作家 ジョルジュ・サンドが賛美したことで広く知られる存在となった。その後、詩人 リルケが「マルケの手記」で一角獣を歌ったり、最近では「ハリーポッター」シリーズの映像に美術セットの一部として登場したりも。しかしこれほど深い影響を受けたのは「機動戦士ガンダムUC」だけだろう。

 ユニコーンは極めて獰猛で力強く、勇敢。しかし “処女の懐に抱かれて初めて大人しくなる” と言われており、この事からユニコーンは「純潔」「貞潔」の象徴とされきた。深読みすれば、一角獣を手名付けている貴婦人はオードリー(ミネバ)であり、一角獣はユニコーンを、獅子はもう一体の黒い2号機「バンシィ」(地球連邦政府初代首相リカルド・マーセナスの血を継ぐリディ・マーセナスがパイロット)を思い起こさせる。
 こうして、一枚のタピスリーの中から壮大な「機動戦士ガンダムUC」の物語が生まれたのだ。

 なお、本展の音声ガイド(500円)では「機動戦士ガンダムUC」のフル・フロンタル役を演ずる池田秀一氏が朗読する、リルケの「マルケの手記」が聴けるのも興味深い。

 

フランス国立クリュニー中世美術館所蔵
「貴婦人と一角獣展」

東京展
会期:2013年4月24日(水)〜7月15日(月・祝)
※毎週火曜日休館
会場:国立新美術館 企画展示室2E(乃木坂)
開館時間:10時〜18時(ただし、金曜日は20時まで)
※入場は閉館の30分前まで
(問)03-5777-8600(ハローダイヤル)

大阪展
会期:2013年7月27日(土)〜10月20日(日)
※毎週月曜日休館(原則として)
会場:国立国際美術館(中之島)
開館時間:10時〜17時(ただし、金曜日は19時まで)
※入場は閉館の30分前まで
 

詳細は展覧会サイトにて
http://www.lady-unicorn.jp/

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