【うるおい女子の映画鑑賞 第38回『リリーのすべて』(英=米=独・2015年)】
「女性」の視点で映画をみることは、たとえ生物学的に女性じゃなくても日常では出会わない感情が起動して、肌ツヤも心の健康状態もよくなるというもの! そんな視点から今回はアカデミー受賞映画(助演女優賞、他3部門ノミネート)『リリーのすべて』(英=米=独・2015年)を紹介します。
ハリー・ポッターシリーズの新作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』での主演で、英国を代表するメインストリーム俳優に上り詰めているエディ・レッドメインの美しすぎる女装姿が話題となっていた本作。
絵画のように可憐な映画のビジュアルとは裏腹に、世界初の性別適合手術を受けたリリー・エルベ(後にアイナー・ヴェイナー)とその妻の人生を描いた衝撃作でもあります。
|ストーリー
デンマークの才能ある画家アイナー(エディ・レッドメイン)と、妻で同じく画家のゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)という結婚6年目の仲良し夫婦。ある日、納期に追われた妻が、女性モデルの代役をアイナーにお願いする。女性用のストッキングを履かされ、ヒラヒラのドレスをあてがわれた彼のこころの中で、”何か”がはじけたきっかけでした。
そしてまた別の日。パーティ嫌いの夫を外に連れ出すために、妻がある悪ふざけを提案します。女装して別人としてパーティにいくという計画を立てるのです。異様に乗り気な夫は、パーティである男性に言い寄られ、キスをします。
彼の中の”何か”が、名前と意思を持って、後戻りのできない目覚めと自覚をもった大きなきっかけでした。本来の性に目覚めたアイナーはもう、自分の体の違和感に耐えられなくなり、妻の反対を押し切り、命の危険もともなう性別適合手術を受けることを決意します。
夫の本来の”性の解放”という出来事を通しても大義の愛を貫く様が描かれ、公開同時も大きな感動を呼びました。6年間という長い夫婦生活を経て、夫の内面は実は女で、これからは女として生きて行きたい、と告白されてもなお、彼(彼女)に寄り添い続けた妻の懐の深さには確かに頭が下がるものがあります。
|”きっかけ”は必然?それとも・・・
ですが、個人的に何より恐ろしかったのは、”気づかせ”という”きっかけ”の怖さ。
アイナーは幼少時代からずっと自らの”性”に違和感を感じてきましたが、当時のほとんどの男性がそうであったように心の中にひた隠しつづけていて、”きっかけ”さえ無ければ、きっとそのまま男性としての人生を送っていたように思います。それが彼の幸せかどうかはさておき。
女として、リリーとして覚醒し自らを解放していくアイナーには、ほぼ周りが見えていません。彼の身を案じて献身的に寄り添うゲルダを何度も突き放し、彼女の気持ちを思いやる余裕もないという様子。振り回されるゲルダに同情してしまうのですが、彼を暴走させる”気づかせ”と”きっかけ”を与えたのは彼女。「あの時モデルの代役を頼まなければ・・・」「あの時、女装してパーティに行くという悪ふざけを提案しなければ・・・」。
遅かれはやかれそうなってたのか、それとも、致命的なきっかけを与えてしまったからなのか、真相はわかりませんがとにかく”気づかせ”という”きっかけ”って怖い。うまくいってないカップルの別れる原因が「私のこともう好きじゃないんでしょ?」という”気づかせ”発言に端を発することが多いといいますが、これはまさに無意識にゲルダがそれをやってしまった感じとでもいいますか。
もちろん、人間が自分を偽ることなく本来の姿で生きていくことは権利で、美しいことだと思います。それとは別のベクトルから感じるのが「パートナーに”気づかせ”発言をすることは取り返しのつかない危険な行為だなぁ」ということ。そんな普遍的な恋愛のトラップに身につまされる思いでした。
最後に余談ですが、とにかく、夫に女装をさせるという度を越した悪ふざけに違和感がありました。ゲルダもアーティストだからかな?とも思ったのですが、実はこの映画は史実をかなり脚色しているそう。実はゲルダもレズビアンもしくはバイセクシャルだったという説があり、彼女はむしろ夫の女性化に協力的だったのだとか。なるほど。基本的には原作は原作、映画は映画。別物だとは思いますが、そんな考察も原作ものを楽しむ醍醐味ですよね?
text:kanacasper(カナキャスパ)(映画・カルチャー・美容ライター/編集者)
編集を手がけた韓国のカリスマオルチャン、パク・ヘミン(PONY)のベストセラー メイクBOOK待望の第2弾『わたし史上いちばん”盛れる”♥ 秘密のオルチャンメイクⅡ』(Sweet Thick Omelet/DVD付/¥1,500・税別)が好評発売中。
image出典:映画『リリーのすべて』公式Twitter
2017/04/26| TAGS: kanacasper
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