お任せのメニューは、前半に酒肴が続き、後半は鮨を一貫ずつつ提供。そのうえ今回は日本海を望む京都・丹後半島の伊根町で、270年続く「向井酒造」の多彩なお酒を10種類用意。1階が船の収納庫、2階が漁具置き場になる海に面した建物が、230軒連なる “伊根の舟屋” が世界的に知られる漁師町。向井酒造も舟屋に面した場所にあり、仕込み蔵に舟屋を使うなど、“日本でいちばん海に近い酒蔵” の酒を、鮨と組み合わせるドラマチックな試みです。
毛ガニのほぐし身に加え、カマスの上には揚げた大黒本しめじが飾られ、コクと酸味が際立つ土佐酢のジュレを和えながらいただきます。

▲「カマスと毛蟹の和え物」
最初のお酒は向井酒造を代表する銘柄「京の春」から特別純米酒。酒米は徳島県阿波町で肥料をできるだけ使わず栽培された特A山田錦、精米歩合60%。米の旨味が広がって、心地よいのど越しの旨い酒。仕込み水はすべて蔵の裏手にある小高い山から引いています。土佐酢のジュレとの相性もよく、“最初のご挨拶” を飾るお酒です。

▲最初の一杯は「京の春 特別純米源酒」
さっぱりとした「カマスと毛蟹の和え物」に続く二品目は、その真逆となる濃厚な味わいの「牡蛎の田楽」。“牡蛎とリンゴのグラタン” をイメージした一皿は、白味噌と卵黄を合わせた玉味噌をのせて焼き上げ、酒粕を加えたクリームチーズが添えられます。リンゴの甘味に牡蠣と玉味噌の濃厚な味は、盃につい手が伸びる趣向です。

▲リンゴと組み合わせた濃厚な「牡蛎の田楽」
「牡蛎の田楽」には白ワインと日本酒のダブルペアリングを用意。イタリア・ベネト州にあるワイナリー、ナルデッロの「ソアヴェ・クラシコ ヴィーニャ・トゥルビアン」は、樹齢60年のガルガネーガ70%とトレッビアーノ・ディ・ソアーヴェから作られた辛口で、コクのある余韻が残ります。そして「京の春 純米生原酒 にごり酒」は精米歩合67%の山田錦を使ったやや辛口。生原酒ならではの活性酒で、味の濃い「牡蛎の田楽」によく合います。もちろんひとつの料理を異なる酒種で味合うのは初体験。料理の余韻も違って感じられる試みでした。

▲「京の春 純米生原酒 にごり酒」と「ナルデッロ ソアヴェ・クラシコ ヴィーニャ・トゥルビアン」
お造りに合わせて、向井酒造を代表的するお酒をペアイング。甘鯛の昆布締めと蒸しアワビには、ポン酢と煎り酒のジュレがかかります。そんな甘酸っぱい料理に合わせたのが、伊根町で復刻栽培した古代米 “紫黒米” と京都産の酒米五百万石を合わせて作ったロゼワインのように赤い「伊根満開」。ポリフェノールやアントシアニンが含まれ、お米の香りとともに旨味やフルーティーな甘味を楽しめる個性際立つお酒です。

▲「伊根満開 古代米」と「甘鯛の昆布締め」
「戻り鰹の巻物」もダブルペアリングにトライ。鰹と秋茄子、にら、大根の甘酢漬けを巻いた美しい出来栄えで、重湯(おもゆ)を使った辛子醤油でいただきます。スペイン・マヨルカ島の赤ワインはソカ レルの「マント ネグレ エスクルサック」。2種類の地場品種マント ネグレとエスクルサックを使い、果実味と旨味、優しい口当たりは、赤味のカツオに合う島ならではのワイン。日本酒は「夏の思い出 純米酒焼酎麹仕込み」。精米歩合70%の辛口の酒米・五百万石を、焼酎用の白麹で仕込みます。白麹特有の酸味や米の甘味など、甘辛酸味が一体となる個性派です。

▲「戻り鰹の巻物」とスペインの「マント ネグレ エスクルサック」
ポン酢や醤油の味が続いた後は甘く奥行きのある鰯の蒲焼が続きます。トッピングされた梅わさびの優しい酸味やピリッとした黒七味にくわえ、シャキシャキ食感の青葱など、いくつもの味が口の中で入れ替わり立ち替わり感じられる一品です。

▲「鰯の蒲焼き飯」
蒲焼きの甘味に当ててきたのが力強い「益荒猛男(ますらたけお) 特別純米原酒 山廃仕込み」。45年ぶりに復活した “幻の酒米” 但馬強力を使い、向井酒造の蔵住み乳酸菌を利用して、山廃仕込みで味の腰を強く仕上げた原酒です。ラベルは子供や漁師の姿を力強く描いた木版画家 村上暁人氏の作品。無骨なお猪口に注がれた熱燗はキリッと辛口で、複雑な旨味や苦味とともに蒲焼をほお張りました。

▲漁師町伊根ならではの酒「益荒猛男 特別純米原酒 山廃仕込み」
いくらをたっぷり飾る「伊勢海老と無花果の揚げ出汁」には、「おべっさん 特別純米原酒 生酛仕込み」の冷酒と熱燗を用意。伊根町の戎神社のお祭りを “おべっさん” と呼ぶことから名付けられたお酒は、無農薬で育てられた伊根産の雄町を使用。精米歩合は80%でキレのある仕上がりに。温かい餡にひたる奥行きのある揚げ出汁を、キリっとした冷酒と、味が膨らむ熱燗で味わう体験です。

▲「伊勢海老と無花果の揚げ出汁」と「おべっさん 特別純米原酒 生酛仕込み」冷酒と熱燗
|この日の握りは12貫
コースの後半は握り。「漬け」や「酢締め」など江戸前の技を楽しめます。シャリは赤酢と京都の千鳥酢を使った優しい味で、食べやすさを重視。1品もしくは2品の鮨で1つのお酒とペアリングしました。
最初の握り「小肌」と、サッパリとした「赤身の早漬け」に合わせたのは「京の春 特別純米 生酛仕込み」。京都府が品種改良した酒米の「祝(いわい)」を精米歩合60%で使い、香りのいい6号新政酵母で醸造。手間がかかる生酛仕込みの特別純米酒は “握りのパート” の始まりを告げるプロローグ的存在です。
▲「京の春 特別純米 生酛仕込み」
初めの一貫は小肌と相性のいい赤酢を使い、柔らかく仕上げています。赤身の早漬けは魚の旨味を引き出すため、醤油に3分ほど漬けたもの。伝統の江戸前を味わいました。

▲「小肌」と「赤身の早漬け」
「剣先烏賊」と「あこうのコブ締め」をはさみ、脂ののった中トロをいただきました。ペアリングは恵比寿様のラベルが目印の「おべっさん」が二度目の登場。ただし先の特別純米原酒から特別純米 “生” 原酒に変わります。同じ生酛作りでも生原酒となるとまろやかなとろみが生まれ、少し熟成させた中トロの脂の旨味にピッタリでした。

▲「中とろ」と「おべっさん 特別純米生原酒 生酛仕込み」
大トロに合わせたのは、自然派ワインで知られるクリストフ・パカレの「ボージョレー・ヴィラージュ」。ブルゴーニュのボジョレー地区で広く栽培されている黒ブドウのガメイ・ノワールを使い、フルーティーな香りと味、爽やかな飲み口は、脂ののった大トロにベストマッチの組み合わせでした。

▲「大トロ」+「ボージョレー・ヴィラージュ クリストフ・パカレ」
|終盤の握りは個性派ぞろい
2025/11/15| TAGS: lifestyle
グルメ
ディナー
ペアリング
ホテル
レポート
大手町
旅
旅館
日本酒
星のや東京
朝食
東京
温泉
観光
鮨
きれいのニュース | beauty news tokyo



