わずか1キロほどの近さに立つ東大寺の大仏殿と、旧奈良監獄に2026年4月27日にオープンした「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」。受刑者が刑にふくし社会復帰を目指したかつての監獄と、世の安寧と救いを願う東大寺の大仏さまを巡る旅。世界を不安が覆う今だからこそ、訪ねてみてはいかがですか。
美しい監獄が問いかけるものは何?
奈良監獄ミュージアムには、明治41年(1908年)に竣工した当時の面影をそのまま残す「保存エリア」と3つのテーマに別れた「展示エリア」で構成され、展示エリアでは監獄や刑罰の変遷を物語る「歴史と建築」や、受刑者の日常に触れる「規律とくらし」、そしてアーティストや受刑者自身の手による作品が展示された「監獄とアート」など、多彩なテーマから刑罰のありかたを紹介しています。

▲100年以上の歴史を感じるレンガの塀
旧監獄を象徴するもの。それが300 mも連なるレンガ造りの長く高い塀です。焼きレンガの多くは受刑者とレンガ職人の手によって焼かれています。そのため、出来具合にムラがあるなど、近くで見ると個性豊か。どこまでも続く高い塀は、規律と制限を課せられた内側と自由に暮らせる外側の、越えることのできない境界です。ぜひ目に焼き付けておきましょう。

▲ミュージアムの入口(上)と監獄独特の建築(下) <画像提供:奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート>
受刑者が暮らした “寮” と呼ばれる5棟の分房監が放射状に伸びていて、中央にある看守所から全ての寮を一望できる「ハヴィランド・システム」と呼ばれる監獄特有の設計です。5つの棟の中央にある第三寮が当時の面影を残していて、ミュージアムの入館者が見学できます。その他の4棟は「星のや奈良監獄」として宿泊施設に作り替えられています。
当時の最先端だった獄舎
長く続いた封建時代と鎖国によって日本は近代化が遅れ、明治時代の中ごろになっても西欧諸国と対等な関係や条約を結ぶことが困難な時代が続きました。不平等条約の撤廃をはかるために取り組んだのが、人権に配慮した刑罰と監獄の近代化です。

▲近代化以前の牢舎
奈良奉行所(南都町奉行所)にあった牢舎を奈良監獄設立時に移築。刑の執行を待つ一時的な収容所として使われたもので、1.5畳ほどの狭い建物に数人の受刑者が収容されていました。夏は暑く冬は寒く、キリギリスを入れる虫かごに似ていることから「ギス監(ギスかん)」と呼ばれていました。

▲受刑者たちがかつて暮らした場所
旧奈良監獄は5寮あるうちの4寮が独居房という構成です。ミュージアムとして見学できる第三寮も独居房で、床や壁の塗装も当時の様子がそのまま残されています。受刑者の人権に配慮して所内を明るくするため、自然光が差し込むように天窓が設けられています。

▲ミュージアムスタッフの解説もありました
獄舎特有の建築や独居房の造り、さらには受刑者の暮らしなどをミュージアムスタッフが説明してくれます。初めて知る監獄での生活は、驚きの連続でした。

▲房の中は3畳ほど
独居房の広さは間口182 cm に奥行き268 cm で3畳ほどの広さですが、天井は350 cm と高く圧迫感を感じないように配慮されています。木製の分厚の扉には食事を入れる窓や、看守が中を覗くための小窓、扉を施錠する鍵も当時のまま残されています。鉄格子のはまった窓はやや高い位置にあって外光が差し込み、レンガの上に白漆喰が塗られているので、明るい空間になっています。

▲古い時代に使われていたと思われる風呂場
刑務所での生活を知る
ミュージアムでは旧奈良監獄はもちろん、現在の刑務所内での生活の様子や受刑者が使う日用品などを展示。受刑者たちがどのような生活を送っているか知ることができます。

▲規律とくらし
刑務所内でのルールをはじめ、男女それぞれの髪型の規定や、布団のたたみ方、生活に必要な支給品、そして生活の様子など、様々な資料や模型などを使って紹介しています。

▲刑務所の衛生ルールが書かれた部屋
壁全面が文字で埋め尽くされていて、細かくルールが決められていることに驚きます。とはいえ、どのルールもたいへん興味深く、隅から隅まで読んで納得してしまう内容でした。

▲本当の自由とは何か
「監獄とアート」のエリアでは、アーティストの作品にくわえ受刑者自身の手による様々な作品が展示されています。天井から吊るされた白い布は、受刑者が書いた詩を地域の有志約200人もの人々が刺繍した「声を縫う」。所内の不自由さを描いた漫画や、誰もが目を離せなくなるような絵が展示されていました。

▲ミュージアムショップもありました
奈良監獄ミュージアムは現在たいへん人気のスポットになっています。前売り券が完売するほどで、現地で当日券を入手することは難しい状況です。事前に公式ホームページからチケットを予約することをおすすめします。
東大寺大仏殿
JR東海の観光キャンペーン “いざいざ奈良” のテレビCMには俳優の鈴木亮平さんが「奈良監獄ミュージアム」と「東大寺」の大仏さまを巡るシーンが紹介されています。実は奈良監獄ミュージアムから大仏殿までは直線距離で1kmほどの近さ。合わせて巡れるオススメのコースです。

▲東大寺とは
相次ぐ災害や天然痘の大流行、政争などで苦難に見舞われた奈良時代。時の聖武天皇(在位724年-749年)は「動物も植物も、生きているすべてのものが幸せになるように」と願い、人々と共に盧舎那大仏を造立され、752年に開眼供養会が行われました。大仏殿では毎月8日と15日の月例法要で僧侶たちによる読経が行われます。朝7時の開門と同時に入堂して、まだ人影のない大仏殿を見ることができました。
※月例法要(寺役)は4月~10月は8時~、11月~3月は8時30分~ ※大仏殿参拝は4月~10月は7時30~17時30、11月~3月は8時~17時

▲大仏さまの歴史と姿
その後地震や2度の戦乱で被災しましたが、そのたびに修復され、近くは江戸時代の1692年に開眼供養が行われました。現在の頭部はその時に造られたもので、1709年には規模を縮小して大仏殿も再建。腹部から脚、台座に奈良時代のものが残っていて、近くで見ると細かい線刻などが施され、改めて驚くこともありました。1270年もの長きにわたり、様々な祈りを受けとめ続けてきた姿には、救いと許しが現れているように感じられました。
旧奈良監獄と東大寺大仏殿を巡る意味
今回の「星のや奈良監獄」の宿泊と「奈良監獄ミュージアム」の取材、そして東大寺大仏殿の見学は、奇しくも罪と罰、許しと救いを順に巡る旅となりました。

▲許しと救いがそこにある
明治41年(1908年)に竣工した旧奈良監獄は、人権に配慮した刑罰を目的に造られた当時もっとも近代的な建物で、昭和21年(1946年)には奈良少年刑務所と改称。平成28年(2016年)に閉鎖されるまで受刑者の社会復帰に力を入れた施設です。奈良監獄ミュージアムでの体験を通じて改めて自由の大切さに気づくことができました。特に鉄格子のはまった窓からじっと外を見つめて立ち尽くす立像は、心に残る姿です。そのいっぽう、世の生きとし生けるものすべてに救いと許しをさしのべる大仏さまが、獄舎からわずか1kmほどの場所に在るのは偶然か必然か、考えずにはおれませんでした。
今こそ奈良へ。「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」を見学して、その足で東大寺大仏殿を順に巡るのがおすすめです。1300年の歴史ある奈良の地で、心に触れる何かをぜひ感じ取ってみてくださいね。<text&photo:みなみじゅん 予約・問:奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート https://hoshinoresorts.com/nara-prison-museum/ja/ いざいざ奈良特設ページ https://nara.jr-central.co.jp>
2026/11/07| TAGS: lifestyle
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